裸のパンジー ヌーディスト村に行った話

裸になるってどんな気持ち? ファッションを仕事にする20代エディターが、服なんて着ない!という村に行ってみた話。

ヌーディスト村日記⑥ここは“自由“なビーチ

ヌードの人はセックス好きか

 ヌーディストキャンプかビーチに行こうと考える私に、同居人のクロエが言った言葉。「フリーセックスみたいな、オープンなカルチャーがあると思うから気をつけて」。

ヌーディスト」という言葉から、エロや奔放な性行動を想像する人は、フランス以外でも少なくないだろう。私はといえば、性的なこと以外に最初から関心が行っていたのであまりよく考えていなかった、というのが正直なところ。ただ、クロエが言ってくれたことはキャプ・ダクドに着いてからもずっと気になっていた。エロいことしてる人、たくさんいるんだろうか、と。

 

 到着後最初期の印象は、「なんだ、全くもって平和じゃないか」。

 私たちが初日に陣取った浜辺は、家族連れもいる、穏やかな場所だった。時折子供の声が聞こえるくらいで、あとは大人たちが、ただのんびりと時間がすぎることを贅沢に味わっているような、そんな空間だった。そりゃあ、みんな裸だし、不思議な感じは大いにするのだけど、その不思議さが靄のように視界を覆って、頭の中もふわっとしてくる心地。

 一つ穏やかでなかったのは、隣に一人で寝そべっている男性のペニスの根元にあのシルバーリングが付いていたこと。性器を常時勃起しているように見せるというアイテムを見たのはこの時が初めてで、なんのためのものか気になって仕方なかったのだ。

 と、それは置いておいて、とにかくそのエリアがあまりにユートピアンだったので、私は簡単にクロエの助言を忘れそうだった。ビーチの端まで歩く散策に出るまでは。

 

海の中に集う人々の謎

 キャプ・ダグドのヴィラージュ・ナチュリストのビーチは、全長2kmほどある。透き通ったブルーが優しい波を寄せてくる、美しい景色だ。なのだが、散歩がてら波打ち際を歩いていると、だんだん人々の様子が変わっていく。最初に“それ“に気づいた時は、単に混んでいるのだと思った。普通のビーチでも、なんとなく人口が集中することはあるじゃないか。ただ、”それ“は違った。なんとなくの集中ではなかった。

 海の中に、20人以上の人だかりができている。いびつな人の輪がいくつも重なったようになって、みんな内側を向いている。なんだろう? 近づいて行くのは少し怖い気がした。目を凝らして見てみると、何か手元を動かしているようなのだが、特に何もしていないようにも見える。その怪しげなサークルの外には、人が散在していてゆっくり波間を歩いている。ほとんど男性だ。ふと、そのなかで一組の男女が抱き合っているのが見えた。そこでやっと「あれ・・・?」と感づいたのだ。

 とはいえ何をやっているかは全然判別できず、男性ばかりのところに突っ込む勇気もなく・・・。じーっとその謎サークルを見ながら歩を進めた。途中でアイスクリームとビールを売っているワゴンがあったので、よし!と思ってビール売りのおじさんに尋ねてみた。(バドワイザーを買いながら!)

「あの、海の中の人たちは何をしているの・・・?」

「あぁあれね」

いかにも「こいつ新入りだな」という調子でニヤッとする。

「あれ、真ん中にカップルがいるんだよ。そのカップルがセックスしていて、それをみんな囲んでいるのさ」

 それを聞いてからもう一度サークルの方に目をやる。海の中で抱き合っていた男女は、どうやら水中で忙しく腰を動かしている。内側を向いて円を作っている男性たちは、黙々と自慰行為に励んでいるのだと、わかった。

 集団的オナニー。これは、実はこの浜辺のあちこちで行われていることだった。

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リベルタンというセグメント

 ここでもう一度ミリアムとリシャールの言を引こう。二人に、なぜこのヴィラージュ・ナチュリストに来たのかと尋ねたら、「ここはナチュリストの場所でもあり、リベルタンの場所でもあって、両方あるのが良いと思ったから」と答えたていた。リベルタンという単語自体は私もフランス留学中に聞いたことがある。その時は自由恋愛主義者という意味で使っていて、彼氏彼女がいても他の人とセックスしてOK!という人たちをそう呼んでいた。どうやらミリアムたちが言っているのは、もう少し広い意味を持っていそうで、つまりそれはクロエが口にしていたこととほぼ同じ、フリーセックス・オープンセックスを楽しむ人たちのことだった。

 海中の怪しい一団も、周辺の人もみんなリベルタンだったのだ。ミリアムによれば、ヴィラージュ・ナチュリストのビーチには、エリア分けが割とはっきりされている。ファミリーゾーンと、リベルタンゾーンだ。

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適当な地図だけど、だいたいこんな感じ!!

 私が最初にのほほんと過ごしていたのは、ファミリーゾーンで、歩いて移動したのがリベルタンたちの舞台だったというわけだ。

 明くる日も、リベルタンゾーンの海は忙しそうだった。ただ、やかましさは全くない。その逆だ。これはこのビーチ全体に言えることだが、海にありがちなイェイ系とかキャイキャイ系の音声はほとんど聞こえない。「エヴォリューション」という映画があって、不思議な島に住む少年がある夜家を抜け出して海辺に行ったら、タコのように変態した大人の女性たちが絡み合いながらうねっている様子を発見してしまう・・・というくだりがあるのだけど、私が南仏の太陽の下で彷彿したのはそれだった。湿度は高く、表面的なテンションは低い。

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Evolution 2016年のフランスの映画。これは昼だし服着てるけど、不可思議さに通じるものがある気が・・・。

 だからこそ不気味というか、得体のしれない感が余計に漂う。それはとても大人の世界だ、とも思えた。

 海の中では大の大人が膝まで水に浸かって、懸命に右手を動かしている。ザブッと水を切って歩み寄ると、彼らの表情に特に色はなく、淡々と、という形容がしっくりくる。その塊に加わっていない人たちは、ゆっくりとあてもなく水の中を歩いている。その様を観察しながら歩いていると、男性が一人これまたゆっくりと(というか水の中だからサクサク歩けはしない)近づいてきた。ぐるん、と体の向きを変えて、彼の接近に気づかなかった振りをしたけれど、私だってもうわかっていた。これがリベルタン的ハッテン場だということに。

 

 しかし、リベルンタンカルチャーの洗礼はこれからだった・・・!(続く)